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東京地方裁判所 平成6年(ワ)11597号 判決

原告

株式会社共同建築研究所

右代表者代表取締役

笹谷宇志雄

右訴訟代理人弁護士

関口徳雄

被告

株式会社浅間興産

右代表者代表取締役

上原康重

右訴訟代理人弁護士

荒井鐘司

岡崎國吉

被告

ベストホーム株式会社

右代表者代表取締役

江渡成幸

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して、四四六万〇八四一円及びこれに対する平成六年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは原告に対し、連帯して、五一四万一四〇〇円及びこれに対する平成六年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告らからマンション建設につき設計・管理等の業務を委託された原告が、右マンション建設が中止となったため、右契約を解除したうえ、それまでに行った業務に応じた請負代金の支払いを被告らに求めた事案である。

一  争いのない事実

1  平成四年一月二四日、原告と被告らは、被告らを注文者、原告を請負人として、次の内容で、建築設計・施工管理業務に関する請負契約を締結した。

(1) 請負代金 一三五三万円(建築代金総額四億五一一七万円の三%)

(2) 建築場所及び建物名 横須賀市浦上台三丁目五五番四二三

仮称「浦賀マンション」新築工事

(3) 業務内容 ①建築確認通知済書取得に関する一切の業務、②基本設計業務(立体駐車場を含む)、③実施設計業務(立体駐車場を含む)、④積算書作成業務、⑤契約図書の作成、⑥概算予算書の作成、⑦広告宣伝用のパースの作成、⑧施工管理業務

(4) 業務期間

① 基本設計・事前申請書の提出

平成四年二月一二日

② 実施設計・建築確認申請書の提出 同年四月一七日

③ 建築確認通知書の取得

同年六月末日

(5) 請負代金支払い方法

① 基本設計完了時及び本契約締結時 四〇五万九〇〇〇円

② 実施設計及び確認通知書取得時

五四一万二〇〇〇円

③ 工事完成及び検査済証取得後

四〇五万九〇〇〇円

2  原告は、右契約締結前の平成三年四月一一日から、締結後の平成四年三月末日までの間に、別紙業務内容一覧表記載のとおりの業務を行った。

3  その後、本件マンションの建設計画が近隣住民の反対にあって長期間進行しなかったため、原告は被告らに対し、本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。

4  被告らは原告に対し、本件請負代金として二〇二万九五〇〇円を支払った。

二  原告の主張

1  別紙料率計算書記載のとおり、原告は、本件請負契約に基づいて原告が行うべき業務のうち、五三パーセントの業務を実施した。

したがって、原告は、本件請負代金(一三五三万円)の五三パーセントにあたる七一七万〇九〇〇円の請求権を取得したというべきで、被告らに対し、既払額を控除した五一四万一四〇〇円の支払いを求めることができる。

2  建設省住宅局建築指導課監修の「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準と解説」(以下「建設省基準」という)で示されている基準に基づき、原告の行った個々の業務に対応する報酬を積算すれば、八〇三万七〇二四円となる。

したがって、右基準に基づいた場合でも、原告は被告らに対し、少なくとも五一四万一四〇〇円の支払いを求めることができる。

三  被告株式会社浅間興産(以下「被告浅間」という)の主張

1  本件請負契約に基づいて原告が行った業務の出来高は、全体の三三パーセントにすぎない。

原告は、別紙料率計算書において、意匠設計の変更分として一一パーセントを計上しているが、原告のいう設計変更とは、図面を完成させるまでの打合せの繰り返しを言っているにすぎず、図面完成後の本来の意味での設計変更とは異なる。したがって、右一一パーセント分の請求は理由がない。

2  本契約締結時に支払うことを約した四〇五万九〇〇〇円については、被告浅間と被告ベストホーム株式会社(以下「被告ベストホーム」という)が各二分の一宛支払うことが原告と被告らの間で合意されていた。被告浅間は、右合意に基づき、本契約締結時に二〇二万九五〇〇円を原告に支払った。したがって、原告が右契約時の支払金の残金を被告浅間に請求するのは、右合意に反する。

四  被告ベストホームの主張

被告ベストホームは、本件マンション用敷地の一部を所有していたが、本件マンションの建設計画がいっこうに進行しないため、右所有地を被告浅間所有の熱海の物件と交換し、本件事業から撤退した。

その際、被告ベストホームは、原告と被告浅間に対し、本件の設計料は両者で協議するよう申し入れた。したがって、原告の被告ベストホームに対する請求は理由がない。

五  争点

1  原告が本件請負契約に基づいて行った業務の出来高。

2  契約時に支払うべき代金につき、分割債務とする合意があったか。

3  本件事業から撤退したことにより、被告ベストホームは本件請負代金について免責されるか。

第三  判断

一  争点1について

1  原告が別紙業務内容一覧表記載のとおりの業務を行ったことは当事者間に争いがなく、甲9の1ないし37、証人小松徹、原告代表者によれば、原告は右業務の成果図書として、基本設計図の全部、実施設計図のうち建築(意匠)九割、構造一部(図面二枚)、設備一部(図面一枚)の各図面、合計三七枚を完成していること(基本設計図と実施設計図中の建築図面を明確に区別することは困難であり、その各枚数を確定することはできない)が認められる。

2  そこで、原告が本件に関して実施した右業務を金銭に見積もる方法について検討する。

まず、原告は、別紙料率計算書記載のとおり、業務内容をイないしヘの六項目に分け、各項目の全体に対する比率を決めたうえ、各項目ごとに実施した業務の割合を主張し、結果として、原告は、本件請負契約に基いて行うべき業務のうち五三パーセントの業務を実施した旨主張するが、業務項目の分け方、各項目の全体に対する比率については、これを正当なものと裏付けるに足る証拠はなく、右主張をそのまま採用することはできない。

次に、原告は、建設省基準に基づき、原告の行った個々の業務に対応する報酬を積算すれば、八〇三万七〇二四円となる旨主張する。

右主張は、客観的な基準に基づく点でそれなりに根拠があるともいえる。しかし、個々の業務に対応した報酬を積算する方法は、本来請負代金額について何ら合意のない場合に適用されるものであり(この場合には他に報酬を算定する方法がない)、本件のように総額についての合意のある場合は、当事者の意思が優先し、報酬額は、右総額に現に実施した業務の割合を乗じた額となるというべきである。

3  そこで、以下、本件における右割合を検討する。

甲14の1ないし7によれば、建設省基準においては、建築士事務所がその業務に関して請求することのできる報酬は、概ね直接人件費と直接経費及び間接経費の合計とされており、直接人件費については、標準業務内容に対応する標準業務人・日数に基づいて算定することができ、直接経費及び間接経費については、直接人件費との比率が一対一であり、結局直接人件費と同額であるとされている。

業務内容一覧表

(各項目における設計図書は工藤氏に交付済)

項目

年月日

人口/回

枚数

A

1、官庁調査

H3.4.11~

2回

2、官庁調査打合

(事前申請含む)

H3.6.28~

9回

3、現地調査

H3.

2回

小計

13回

B

1、施主打合

H3.~

15回

2、近隣対策打合

H3.~

2回

小計

17回

C

基本計画 作図

H3.4

5枚

H3.4.26

3回

3枚

H3.5.17

4枚(変更含)

その他スケッチ有

小計

3回

D

模型作成

1回

E

近隣用図面及び

資料作成

16枚

1式

F

1、各図スケッチ

1式

2、日影チェック及び作図

1式

G

基本設計  初回

スケッチ

15枚

設計変更第一回

スケッチ

15枚

設計変更第二回

15枚(一部手直し)

小計

45枚(手直含)+

スケッチ

H

実施設計  初回

20枚

設計変更第一回

(施主要望により)

減額案

一部手直し

設計変更第二回

(施主要望により)

エレベーター・

管理室位置

一部手直し

設計変更第三回

(施主要望により)

建具表スケッチ

ワンルーム中止

一部手直し

小計

20枚+α

I

各打合  構造

3回×2人

仮定断面 迄

設備

4回×2人

エレベーター含

駐車場

3回×1人

小計

17回

J

事前相談申請

1式

K

報告書作成

1式

料率計算書

イ、計画

15%

イ、

15%

ロ、基本・実施

45%

ロ、の甲

18%

甲:意匠20.0%

ロ、の乙、丙

4%

乙:構造12.5%

ロ、の甲の変更50%

11%

丙:設備12.5%

ハ、確認

5%

ハ、の20%

1%

ニ、精算関係

10%

0%

ホ、監理

20%

0%

ヘ、その他

5%

ヘ、

4%

合計100%

合計53%

設計料の53% 金7,170,900円

この考え方によれば、直接人件費全体に占める現に実施した業務の直接人件費の割合さえ明らかになれば、直接経費及び間接経費の割合もこれと同率と考えられるので、右割合に基づき、報酬額を算出することができることになる。

そして、建設省基準は、直接人件費算定のため、建築物の用途等の区分と総工事費との組合せごとに、それぞれの場合に応じた標準業務人・日数を具体的に紹介している。

そのうちで最も本件に近い総工費四億円の共同住宅等の例によれば、直接人件費算定の基礎となる標準業務内容及びそれに対応する標準業務人・日数は次のとおりである。

A 実施設計

a 建築 154.99日

図面枚数二六枚

b 構造 76.23日

図面枚数一〇枚

c 設備 51.33日

図面枚数二四枚

d 調整業務 46.5日

B 基本設計

a 建築 154.99日

b その他 12.76日

C 工事監理等

a 工事監理業務 206.5日

b 工事の契約及び指導

監督に関する業務 47.0日

以上合計 750.3日

そこで、前記1で認定した本件において実施された業務内容をこの例に当てはめれば、次のとおりとなる(構造及び設備は図面の枚数を基準とし、調整業務は建設省基準のAabcに対する本件のAabcの割合から算出した)。

A 実施設計

a 建築 139.49日

b 構造 15.20日

c 設備 2.14日

d 調整業務 35.34日

B 基本設計

a 建築 154.99日

b その他 12.76日

C 工事監理等

a 工事監理業務 〇日

b 工事の契約及び指導

監督に関する業務 〇日

以上合計 359.92日

以上によれば、本件において現に実施された業務の割合は、47.97パーセント(359.92÷750.3)となる。

二  争点2について

本件全証拠によるも、契約時に支払うべき代金につき、分割債務とする旨の合意があったとの事実を認めるに足りない。

三  争点3について

単に本件事業から撤退したというのみでは、本件請負契約上の債務が消滅する謂われはなく、被告ベストホームの主張は、主張自体失当である。

四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告らに対し、請負代金額(一三五三万円)の47.97パーセントにあたる六四九万〇三四一円から既払額二〇二万九五〇〇円を控除した四四六万〇八四一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官庄司芳男)

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